2026年版中小企業白書でデジタルについて述べられたこと 〜「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化
- 2026年05月20日
- 中小機構 中小企業支援アドバイザー 村上知也
- 中小企業白書
- デジタル化

2026年の中小企業白書・小規模企業白書が発表されました。
中小企業白書第2部のテーマは、『「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化』となっています。
本記事では、白書の中で「デジタル」についてどのように取りあげられたかを中心に確認します。
2026年の白書のテーマは?
2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要を中心に確認します。
https://www.meti.go.jp/press/2026/04/20260424005/20260424005-1r.pdf
冒頭のメッセージを引用します。
”経営環境の転換期において現状維持は最大のリスク。経営者の能力の差が明暗を分ける。短期的な損益を追うのではなく、 長期的な視点で 事業・組織構造を再構築していく「戦略」を持った経営に転換し、「稼ぐ力」を高め、「強い中小企業」へと成長することが重要”
中小企業白書では、『「強い中小企業」に向けた「稼ぐ力」の強化』がテーマとなっています。また、小規模企業白書では『小規模事業者の経営リテラシー向上と企業間連携による事業の維持・拡大』がテーマです。
「稼ぐ力」といえば、中小企業白書では10年前の2016年にもテーマとして取り上げられていました。ただし、修飾語は変化しています。「未来を拓く」から「強い中小企業に向けた」へと変わりました。ここでいう「強さ」は単に規模の大きさだけを意味したものではないでしょうが、昨年度から「100億宣言」の制度が創設されたことも踏まえると、中小企業に対して、より成長し、収益を上げていくことが求められているといえるでしょう。
どういった取り組みが求められているのか?
白書において大きな課題として挙げられているのは、やはり「中小企業の賃上げ」です。雇用の約7割を占める中小企業における賃上げは、日本経済にとって極めて重要であり、一時的な賃上げではなく、実質賃金のプラス定着に向けた持続的な賃上げの実現が求められています。一方で、中小企業の労働分配率(付加価値額に占める人件費の割合、一般的に低いほど賃上げ余力が大きい)はすでに8割に近い水準にあり、賃上げの原資確保が課題となっています。さらに、「労働供給制約社会」の到来により、従来から大きな課題である人手不足が、さらに深刻化するおそれがあります。
そこで必要となる取り組みが、「稼ぐ力」の強化です。白書では、賃上げ原資を確保し、持続的な賃上げの実現という好循環の定着や、人手不足を乗り越えた供給力の維持・向上を図ることが重要とされています。そのために、①成長や変革に挑戦する「稼ぐ力」の強化に向けた取組の実施、②経営力の土台となる「経営リテラシー」の強化と実践が重要であると述べています。
「稼ぐ力」の強化に向けた具体的な取り組み例として、白書では、付加価値労働生産性(付加価値額÷労働投入量)に着目し、以下の図表の6つが挙げられています。なかでもAI活用やデジタル化は、分母側に位置づけられているものの、労働投入量の最適化といった効率化にとどまらず、分子である付加価値の向上にも寄与することが期待されています。このように、攻守両面から取り組むべき重要なテーマであるといえるでしょう。
白書でデジタル化についてはどのように語られたか?
以降は、白書の中でAIやデジタル化がどのように語られているか、筆者の目線で確認していきます。まずは過去からの遷移を確認します。
前述のとおり、2016年版白書に「稼ぐ力」がテーマとされた当時は、「ITの利活用」という位置づけで、情報技術を活用していこうというトーンでした。その後、時代の変化とともに、「IT」という言葉は「デジタル」という表現へと移行しました。そしてデジタルはインフラとして位置づけられ、企業経営においては当然のように活用すべきものとされてきました。
さらにDX(デジタルトランスフォーメーション)の段階に進み、単にデジタルが重要であるというよりも、事業変革(X)そのものが求められるようになりました。そして2026年版白書では、AI活用の文脈から、すでに「AX(AIトランスフォーメーション)」という表現も用いられるようになっています。これは、AIを単に活用するだけでなく、事業変革の中にAIが組み込まれていくことを示しているといえるでしょう。
デジタル化に関する動向
それではデジタルに関連する図表やデータを確認していきます。以降に登場する図表の出典は全て、2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要から引用したものです。
毎年掲載されている中小企業のデジタル化の取組段階に関するデータによると、DXに該当する段階4(デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態)と回答した事業者は2.8%にとどまっています。なお、2023年は6.9%、2024年は3.2%であり、段階4であると回答する企業は年々減少しています。
デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力の強化に取り組むことは容易ではなく、自信を持って実践できているといえる企業は少ないのが実状であると考えられます。
次に、設備投資に占めるソフトウェアへの投資の割合を示す「ソフトウェア投資比率」の推移を見ると、近年、中小企業は上昇傾向にありますが、大企業と比較して低い水準で推移していることがわかります。
クラウドサービス関連費用を含む「従業者一人当たり情報処理・通信費」の推移を見ると、企業規模を問わず増加傾向にあることが分かります。著者自身においても、クラウドサービスへの支出は増加の一途をたどっており、近年ではAIサービスへの投資も拡大しています。
労働生産性を3つの類型に分類
労働生産性の分母である労働投入量(=従業員数)の最適化に関して、労働生産性を向上させるためには、従業員数の伸び率を上回る付加価値額の伸び率を達成することが必要です。その在り方としては、従業員数が増加した場合でも、それを上回る変化率で付加価値額を増加させること(①効率的成長型)、あるいは従業員数が減少しつつも付加価値額を増加させること(②効率化型)のいずれかが考えられます。
一方で、付加価値額が増加していても、それを上回る増加率で従業員数が増えている場合(③非効率的成長型)、労働生産性は低下しており、労働投入量の最適化に向けて適切な取組を行うことが求められます。
このような観点を踏まえると、中小企業の労働生産性向上に向けては、①効率的成長型、②効率化型を目指していくことが望ましいといえるでしょう。
以下の図表を見ると、省力化投資、AI活用、ITツール活用(デジタル化)に取り組んでいる企業は、いずれも、③非効率的成長型から①効率的成長型へ移動している傾向にあります。省力化投資、AI活用、ITツール活用(デジタル化)に取り組んだことで、労働投入量の最適化につながり、労働生産性が向上している可能性が示唆されます。
労働生産性を高めていくには、これらの取り組みが重要だと言えるでしょう。
生成AIの活用動向
それでは、中小企業の足下のAIの活用状況はどうでしょうか。白書のアンケート調査によると、省力化投資のうち、AIを活用している企業は全体の約3割であることが分かります。
一方で、著者がセミナーなどで中小企業経営者にAIの利用状況を尋ねると、多くの人が「利用している」と回答します。つまり、経営者個人としては活用が進んでいるものの、企業全体としてAIを十分に活用できているかという点では、まだ課題が残っていると考えられます。
また、白書によると、中小企業がAIを活用していない理由として、「活用する業務のイメージができていない」が最多となっています。
やはり、文章作成やアイデア出しといった一般的な利用シーンではAIが活用されているものの、実際のコア業務においては、具体的な活用場面を設定し、AIを用いて成果を上げることのハードルが高いと考えられます。
一方、通常のデジタル化については、ITツールを導入するだけでなく、研修や勉強会などを実施して効果の創出に努めたり、特定の閉じた部門にとどめるのではなく、部門間連携を進めたりすることで、より高い効果が得られる可能性があることを示しています。
まとめ
本記事では、2026年版中小企業白書の概要におけるデジタル関連の話題について確認しました。
さまざまな課題がある中で、一周回って「稼ぐ力」が改めてテーマとして設定されており、支援者としても、事業者の稼ぐ力をいかに高めていくかが重要な取組となるでしょう。
その中でも、近年の白書ではデジタル化の取組については一定の効果が見られたこともあり、言及される内容は減少していました。2026年版白書では、AIに関する記述が増えており、事業者のAI活用や、事業変革を実現するAX(AIトランスフォーメーション)への支援も求められると考えられます。