日本の産業の今後5年はどうなる?デジタルはどうなる?〜みずほ産業調査79号から
- 2026年02月27日
- 中小機構 中小企業支援アドバイザー 村上知也
- DX

みずほ銀行が『日本産業の中期見通し』を発行し、各業界がどのように変わっていくのか、どんなリスクと機会があるのかを整理してくれています。
全91ページのレポートの中のキーワードを確認すると、「デジタル」は55回、「AI」は77回登場しています。このレポートは情報通信白書のようなテクノロジーに関するものではないのですが、産業に与える影響が「デジタル」「AI」ともにとても大きいと言えるのではないでしょうか。
中小企業のデジタル化のための冊子が発刊されました
2025年11月末に、みずほ銀行から、『日本産業の中期見通し 〜向こう5年(2026ー2030年)の需給動向と求められる事業戦略〜』が発行されています。本体のレポートは以下のURLからご覧になることができます。
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/sangyou/pdf/1079.pdf
幅広い産業における今後5年間の見通しがまとめられており、ご自身が関わる業界の動向を確認するうえで、大変興味深い資料だと思います。特に、多岐にわたる業界への支援を担う支援機関の皆様にとっては、一読の価値がある内容ではないでしょうか。レポートの目次は以下の通りです。
(出典)みずほ産業調査79号
レポートの中では、今後の5つの主要な外部環境の変化として、①国際情勢の緊張・不安定化、②脱炭素化・環境対応の揺らぎ、③供給制約の高まり、④人口動態の変化、⑤デジタル化・テクノロジーの急速な進化が挙げられています。
国際情勢や人口動態の変化といったマクロな問題は、一事業者にとっては対応が難しく、どうしようもない側面があると言えるでしょう。その中でも、近年特に実感する機会が多いのが「供給制約の高まり」です。実際、この年末にはパソコンのメモリパーツが不足し、パソコンの販売を停止しているショップが多数見られました。需要があるにもかかわらず、商品がなくて売れないという状況は、中小事業者にとっても今後さらに切実な問題になってくる可能性があると考えられます。
さて、本記事では、「⑤デジタル化・テクノロジーの急速な進化」に着目し、その内容を確認していきます。
主要な外部環境の変化の中で、デジタル化に関するリスクとしては「DXの遅れによる競争力の低下」が挙げられます。一方で、チャンスとしては「デジタル技術活用による付加価値向上・新規需要創出」が期待されています。
【外部環境がもたらす日本の産業構造の変容】
(出典)みずほ産業調査79号に、一部追記
デジタルはどうなる?
レポートにおけるデジタル分野の内容は、やはりAIに関連した記載が多くなっています。データが豊富で知識集約型産業の領域を中心に、AIエージェントなどの実装が進み、創薬や金融といった特定分野では、AIや量子コンピュータの社会実装に向けた開発が推進されるとされています。また、今後は徐々にフィジカルAIによるロボティクスの高度化が進み、現実世界とデジタルの融合が進行していくと述べられています。
産業別に見ても、PC作業を中心として、AIエージェントの実装が進み、どの業界でも発生する受発注業務などの効率化が進んでいくのではないでしょうか。さらに、データの重要性が高い創薬や金融分野では、AIや量子コンピュータの社会実装が進むと考えられています。AIだけでなく量子コンピュータまで登場することで、どのような未来が訪れるのか楽しみである一方、内容がよく分からず不安に感じる面もあるでしょう。
そして、時間差はあるものの、フィジカルAIによるロボティクスの高度化によって、現実世界とデジタルの融合が進むとされています。掃除や配膳にとどまらず、介護や配達などさまざまな分野でAIを搭載したロボットが活躍する未来も近づいているように感じられますが、実現にはまだ少し時間がかかるかもしれません。
そのような社会の実現のためには、AI活用に向けたデータ連携基盤の整備や、AIインフラへの投資が今後も継続されるでしょう。また、事業モデルについても、ハードウェアの売り切り型ではなく、サービスで収益を上げるサブスクリプション型のビジネスモデルが、さらに拡大していくと考えられています。
以下のグラフを見ると、製造業・サービス業のいずれにおいても、ソフトウェアへの投資比率が大きくなっていることが分かります。一方で、サービス業の資本装備率(総資本を労働力で割った指標)は低く、依然として多くの労働力を投入する労働集約的なビジネスモデルであると言えるでしょう。
サービス業である以上、現状では人手がかかるのは当然とも考えられます。しかし今後、フィジカルAI(ロボット)の導入が進めば、サービス業においても資本装備率が上昇する可能性は高いと考えられます。
(出典)みずほ産業調査79号
AIテクノロジーそのものに対する各国の投資状況を見ると、米国が圧倒的に大きく、次いで中国が続いています。このことから、AIの中核領域への投資においては、追い付くことが難しい状況にあると言えるでしょう。
(出典)みずほ産業調査79号
産業分野ごとのデジタル化
それでは、産業分野ごとにデジタル化については、どのような視点が掲載されていたか、まずは一覧でまとめてみます。
(出典)みずほ産業調査79号から筆者まとめ
このまとめだけでは、今後どのように変化していくのかを把握しづらい部分もあります。そこで本稿では、この中でも比較的変化がイメージしやすい小売業と宿泊業に着目し、もう少し詳しく内容を見ていきます。
小売業は、ネットショップの登場以降、消費者との直接的な接点が徐々に希薄化してきました。そのため、実店舗だけでなく、インターネットを通じた情報発信を強化し、オンライン上での接点を増やそうとする事業者が増えてきています。
しかし、AIエージェントが普及すると、小売店はさらに消費者との接点を失い、最終的にはAIによる買い物代行手数料の負担が重くなる可能性があります。現状でもAmazonや楽天市場などのプラットフォーム手数料が発生していますが、近い将来には、これに加えてAIへの手数料がかかることも予想されます。
消費者は、自身のニーズを明確に伝えるだけで買い物が完結し、店舗への移動や商品の比較といった作業が次第になくなっていくかもしれません。実際、著者自身の買い物も、約95%がネット上で完結しています。
このような状況の中で、小売業が取るべき打ち手を考えるのは容易なことではありませんが、ネット上での情報発信力を高め、消費者との接点を確保していくことが重要です。
また、都市部における「タイパ(タイムパフォーマンス)」ニーズの取り込みや、買い物困難者への対応など、小売以外のサービス提供も含めて、事業全体を見直していく必要があるでしょう。
中小小売業にとっては、AIに見つけてもらうための情報発信がますます重要になる一方で、中小企業ならではの独自性やアナログの良さを、実店舗で発揮していくことも求められると感じます。
(出典)みずほ産業調査79号
また、宿泊業では、現状でも宿泊予約の多くをオンライン旅行代理店(OTA)に依存した集客となっている傾向が進んでいます。しかし、予約手段がAIエージェントへと移行した場合、この分野の勢力図が大きく変わる可能性があります。
AIエージェントは、データに基づいて高度にパーソナライズされた提案を行います。そのため、データ量が多く、かつ質の高い情報を提供できる情報源が選ばれやすくなります。結果として、宿泊事業者には、エリア戦略の最適化やデータの強化を通じて、旅行者のAIエージェントに選ばれやすくなるための取り組みが求められることになるでしょう。
宿泊業においても、実際の宿泊施設で独自性を発揮することに加え、その魅力をAIに見つけてもらうための情報発信力が、今後ますます重要になると考えられます。
まとめ
デジタル化への対応は、日本の中小企業にとって大きなチャンスである一方、対応を誤れば大きなリスクにもなり得ます。どのように取り組むかによって、企業の将来が大きく変わる重要な分かれ道になるでしょう。
単に、これまで人が行ってきた業務をデジタルに置き換えるだけの「守りのデジタル化」、つまりコスト削減だけを目的とした受け身の取り組みでは、厳しい競争環境の中で苦しくなる可能性があります。
これから求められるのは、デジタル技術を活用して新しい価値を生み出したり、新たな需要を掘り起こしたりする「攻めのデジタル化」です。こうした前向きな取り組みによって、競争で不利になるという不安を、新しい市場を切り開くチャンスへと変えることができるでしょう。
冒頭で、レポート中に「デジタル」という言葉が55回、「AI」という言葉が77回登場すると書きましたが、将来を見据えた内容である以上、これらのテーマが多く取り上げられるのは自然なことだと思います。
一方で、中小企業がデジタルやAIの分野で大手企業と同じ土俵で勝負しても、簡単に勝てるものではありません。だからこそ、中小企業には、アナログも含む自社ならではの個性や強みを活かした「独自の価値」を大切にすることが重要です。そして同時に、その魅力をデジタルを使ってしっかりと伝えていくことが、今後は欠かせなくなるでしょう。