IT専門家との伴走で売上3倍へ。4,000点の土産品を扱う卸売業が挑んだDXの全貌
- 2026年03月25日
- 琉球ワークス株式会社
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沖縄県名護市に本社を構える琉球ワークス株式会社は、約4,000点の沖縄土産品を企画・制作し、約600社へ卸す土産品卸売業者です。代表取締役社長の岩月昭雄氏は、もともと愛知県の企業で全国の水族館・動物園などにオリジナルグッズを卸す事業に携わっており、美ら海水族館との取引を機に沖縄と深い縁を持つようになりました。「沖縄に雇用を生み、税金を納める企業をつくりたい」という想いから2015年に現地法人として独立し、事業を展開しています。
コロナ禍において従業員が半減する危機を経験しながらも、補助金を活用した受発注システムの導入を皮切りに、AI-OCRの導入や需要予測AIの構築など、段階的にデジタル化を進めてきました。売上は3倍、スタッフ一人あたりの労働生産性は7倍に向上し、残業時間は88%削減されました。その原動力となったIT専門家との出会いと、現在進行中の3つのDXプロジェクトについて、代表取締役の岩月氏にお話を伺いました。
全国の水族館を回った経験を武器に、沖縄で土産品卸を立ち上げ
――はじめに、事業の概要を教えてください。
弊社は『沖縄の魅力を「カタチ」にする。』をテーマに、沖縄の素材や文化を活かした商品づくりを行っています。主軸となるのは、企業のノベルティグッズやオリジナル商品、観光土産品の企画からデザイン・製造・卸売です。そのほかにも、ショップや飲食店の経営・管理、地域の観光情報の発信、コンサルティング業務なども手がけています。
もともとは愛知県にある企業の子会社として、2015年に設立しました。親会社では専務として、全国の水族館や動物園、テレビ局、野球球団などにオリジナルグッズを卸す事業を手がけていました。2002年頃、美ら海水族館の開館をきっかけに初めて沖縄を訪れ、取引が始まりました。それが沖縄との縁の始まりです。
当初は、地元に多くの事業者がいることから、県外企業が事業を展開するのは容易ではないという声もありました。それでも、弊社には全国の水族館リニューアルを数多く経験してきたという強みがあります。地元企業と競合しない領域から少しずつ取引を広げていった結果、現在では水族館内でも大きなシェアを占めるようになりました。
――事業を進める中で、どのような課題がありましたか。
受注業務の負担が大きな課題でした。創業以来、注文の受付はFAXと電話が中心で、週末になるとFAXが数十枚、多い時は100枚近く届きます。手書きの発注書が多く、まず文字を読み解くところから始まります。注文内容には「Tシャツ5枚」のように色や柄、サイズが明記されていないものも多く、その都度お客様に折り返して確認しなければなりませんでした。
届いた注文については、品番や倉庫の棚番号を一つひとつ調べて伝票に手入力し、在庫を確認して出荷の可否を判断していました。繁忙期にはデザイナーや経理など本来は別の業務を担当するスタッフも含め、社内総出で受注業務に対応し、朝9時から午後2時頃まで作業に追われていました。膨大な量をこなさなければならないので、数量の打ち間違いや品番の入力ミスといったヒューマンエラーも発生していました。
――事業自体は順調だったのでしょうか。
はい、コロナ前は順調に伸びていました。ところがコロナ禍でほとんどのお客様が休業し、電話もFAXも鳴らない日々が続きました。倒産が頭をよぎるほどの状況です。
従業員から「給与を100%保証できるのか」と問われても、明確な約束はできない状況でした。国の補助だけでは十分とは言えず、不足分は会社が負担せざるを得ませんでした。こうした状況から、業界の先行きに不安を感じて退職を申し出る社員も相次ぎ、ピーク時には36名いた従業員が15名まで減少しました。特に、経験豊富なベテラン社員が離れてしまったことは大きな痛手でした。
ただ、私自身は創業者ですから、「もう一度ゼロからやればいい」という気持ちだけは持っていました。人が減っても業務を回せる仕組みを本気で作らなければならない。コロナ禍は、そう腹を括るきっかけになりました。
受発注システム「Bcart」で注文の95%を自動化
――デジタル化に踏み切ったきっかけは何でしたか。
コロナ禍で業務に余裕ができたタイミングで、名護市商工会から「小規模事業者等デジタル化支援補助金」をご紹介いただいたことが取り組みのきっかけです。将来を考えると、人手は今後さらに減っていくことが想定されるので、FAXや電話による対応をこのまま続けられるのかという不安がありました。取り扱うアイテム数は多い一方で、それを処理する人材は不足しており、何とか改善しなければならないと感じていました。
――そこから、具体的にどのように動かれたのですか。
商工会を通じてISCO(沖縄ITイノベーション戦略センター)の専門家派遣制度を紹介していただき、コーディネーターの方に間に入ってもらうことになりました。弊社が実現したいことや解決したい課題をお伝えすると、4つの受発注システムに絞り込み、調査・比較した上でご提案いただきました。資料も丁寧に用意してくださり、ITに詳しくない私たちにも分かりやすく説明してくれたので、導入までの検討は非常にスムーズに進みました。
その中から選んだのが「Bcart」です。お客様ごとに卸価格を個別設定できるBtoBに特化した仕組みであることと、ランニングコストの面で弊社の規模に合っていたことが決め手でした。
――導入後、業務はどのように変わりましたか。
注文の約95%がBcart経由になり、入力作業や在庫チェック、品番確認といった一連の業務を効率化できました。お客様自身がシステム上で商品を選んで注文してくださるので、受注側の手間が大幅に減っています。
大手のお客様は独自の発注システムを持っているため、一部はそちら経由で対応していますが、体感としてはFAXや電話での注文はほとんどなくなりました。
加えて、Bcartには想定していなかった効果もありました。ひとつは与信管理の自動化です。新規のお客様がBcartに登録すると、連携している掛け払いシステムが自動で与信チェックを行い、取引可否がすぐに判断できます。以前は、取引実績のない会社はネットで調べていましたが、その作業が一切不要になりました。
もうひとつは新規顧客の獲得です。Bcartを通じて「商品を見たい」「カタログが見たい」と新規のお客様から問い合わせをいただくようになりました。新商品の告知や欠品情報のアナウンスもBcart上で一斉に配信できるため、営業活動の代わりとしても大きく機能しています。
――導入時に社内で反対はありましたか。
ありました。営業担当者からは「国際通りのお土産店には年配の方が経営されている店舗も多く、ウェブ注文の導入は難しいのではないか」と言われました。
ただ、私たちの仕入れ先のメーカーさんは、すでに80%以上がウェブ発注に移行していたんです。であれば、私たちの販売先にもできないはずはないと考えました。
実際には、どうしてもウェブに対応できないお客様もいらっしゃいます。そういった方には、営業担当者が訪問時に目の前で操作しながら、パソコンからの注文方法をご案内するなど、できるだけ負担なく移行していただけるようサポートしています。また、Bcartの機能を追加し、バーコードをカメラでかざすだけで商品が表示される仕組みを導入するなど、作業しやすい環境を整えました。
IT専門家との顧問契約とAI-OCRの導入
――Bcart導入後も、デジタル化を続けられたのですね。
はい。Bcart導入時のコーディネーターの方が私たちの課題や要望に向き合い、最適な解決策を提示してくださったことから、1回目の支援が終わった後に顧問契約を結び、外部のIT専門家として月1~2回のミーティングをお願いするようになりました。Bcartだけではカバーしきれない課題が他にも複数残っていたため、継続的にアドバイスをいただける体制を整える必要があると考えました。
――顧問契約のもとで、どのような取り組みを進めましたか。
まず取り組んだのが、勤怠管理のデジタル化です。これは補助金とは関係なく弊社の判断で行いました。紙のタイムカードを各拠点に1台ずつ設置したタブレットに置き換え、出退勤や残業申請、有給申請をすべてデータ化しました。
以前は複数拠点からタイムカードを回収して経理が手作業でチェックし、ダブルチェックまで行っていた作業が大幅に効率化されています。有給残日数の確認や給与明細の配布もデジタルに切り替え、「紙をなくす」取り組みを少しずつ進めています。
次に、令和6年度の補助金を活用して導入したのが、AI-OCR「SmartRead」と、販売管理システム「アラジンオフィス」へのデータ連携機能です。
Bcartの導入により注文の約95%は自動化できましたが、FAXやメールで届く注文や、お客様から送られてくる手書きの棚卸表・売上報告書は依然として手作業で処理していました。導入したSmartReadでこれらの紙データを読み取って販売管理システムへ自動連携させることで、受注から管理までの一連の業務を自動化しました。
――AI-OCRの読み取り精度はいかがですか。
大体95%ぐらいの精度で読み取れています。少し異なっている部分だけを目視でチェックして修正すればよいので、以前のように一から手入力する負担とは比較になりません。おかげで小さなミスも見逃さない確認体制を構築できたと感じています。
3本柱のDXプロジェクト―AI在庫管理、オンラインカスタマイズ、RFID(ICタグによる在庫管理)
――現在進行中の取り組みについて教えてください。
沖縄県のDX補助金を活用し、3つのプロジェクトを同時に進めています。
1つ目は、AIを活用した在庫管理・需要予測システムの構築です。これまで仕入れの発注は、膨大なExcelデータを確認しながら1週間ほどかけて、季節変動や販売トレンドを肌感覚で判断して行っていました。為替の変動や工場の混雑状況なども考慮する必要があり、属人的な作業になっていたのが課題です。在庫金額が膨らみ、税理士から指摘を受けるほどの在庫過剰に陥ったこともありました。
現在構築中のシステムでは、売上実績・現在庫・受注残(仕掛中の商品に対する必要在庫)などのデータを投入すると、AIが適正在庫を算出し、発注すべき商品と数量を提案してくれます。季節変動や急激な売れ行きの変化も加味され、海外生産で2ヶ月先のリードタイムが必要な場合はそのストック分も自動で計算されます。最終的にはメーカーへの発注メールまで自動送信できる仕組みです。
2つ目は、エンドユーザー向けのオンラインカスタマイズシステムです。これまで「こんな商品を作れませんか」という問い合わせが多く寄せられていましたが、その都度デザイナーが対応していては手間と時間がかかり、利益にはつながりにくい状況でした。
新システムでは、あらかじめ用意した無地のアイテム(Tシャツ、タオル、コップ、キャップなど)に、お客様がウェブ上で好きな柄や文字をデザインできます。
画面上で完成イメージを確認しながら、数量・色・サイズの選択から決済までをオンラインで完結できるため、デザイナーが個別に対応する必要がありません。決済が完了するとデータは自動的にメーカーへ送られ、製造・出荷まで進みます。このシステムにより、小ロットの個人のお客様にも対応できるようになると期待しています。
3つ目は、RFIDの導入です。商品のタグに埋め込まれたICチップを電波で読み取り、在庫を一括で管理できる仕組みです。通信範囲内のICチップをまとめて読み取れるため、商品を一つずつスキャンする必要がありません。現在、Tシャツだけで年間約60万枚を扱っていますが、棚卸作業は手で一枚ずつ数えるため何度確認しても数が合わないことがあり、人件費と時間が膨大にかかっていました。RFIDであればスキャナーをかざすだけで瞬時に在庫を把握でき、同じ商品でも個体ごとに異なるIDが付与されるため、入荷から出荷までの動きを追跡することもできます。
まずはコストを考慮して単価の高いTシャツなどを中心に導入を進め、将来的には土産品の無人販売への応用も視野に入れています。
外部の専門家と歩むDX。中小企業へのアドバイス
――これらの取り組みを振り返って、どのようなことを感じますか。
ISCOとの出会いは、弊社のDX推進における重要なきっかけとなりました。これまでの取り組みを振り返ると、初期の段階で支援いただいたことが、その後の取り組みに繋がっていると感じています。
私たちのような中小企業では、社内にITの専門人材を常時雇用することは難しいですが、顧問契約で月に1~2回対応していただくだけでも、得られる情報や効果は非常に大きいと実感しています。
実際に数字で見ても、コロナ禍で落ち込んだ売上は3倍にまで回復し、スタッフ一人あたりの労働生産性は7倍、残業時間は88%の削減を実現しました。
――デジタル化に取り組む中小企業にアドバイスをお願いします。
何もかも自分でやろうとしないことです。ITの商品やサービスは数えきれないほどあり、技術や選択肢も日々更新されています。自分たちだけで最適なツールを見つけるのは非常に困難だったと思います。
弊社の場合は外部のIT専門家と顧問契約を結び、月1~2回のミーティングを重ねてきました。それだけでも得られる情報や効果は大きく、自社だけでは気づけなかった選択肢が次々に見えてきました。
専門家の力を借りることで、ここまで変われる。その実例として参考にしていただければうれしいですね。
琉球ワークス株式会社
HP:http://ryukyuworks.com/
所在地:沖縄県名護市大東1丁目1-7 2F
従業員数:35名
代表:岩月 昭雄