鍵の受け渡しトラブルをゼロへ。左官業が挑む、無人チェックインシステム導入のリアル

  • 2026年03月23日
  • ヴィラ泡瀬111(株式会社中城工業)
  • 宿泊業
  • PMS(ホテルシステム)
  • 沖縄

沖縄県中城村に拠点を置く株式会社中城工業は、左官・建設業を主力事業としながら、全室オーシャンビューのアパートメント型ホテル「ヴィラ泡瀬111」を運営しています。宿泊業のノウハウがなかった同社は、当初は外部にホテル運営を委託していましたが、コロナ禍で委託先が撤退したことを契機に、自社での運営を決断。

その中で直面した海外ゲストとの情報伝達や宿泊台帳の課題を、いかにIT技術を活用して解決したのか。システム導入を推進した長澤氏に、同社の取り組みと今後の展望についてお話を伺いました。


コロナ禍で生まれたホテル事業と、引き継ぎの苦労


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はじめに、会社と事業の概要を教えてください。


弊社は沖縄県中城村を拠点に、左官業を主力事業とする建設会社です。創業者である現会長は、トマト農家から転身し、23名で左官業をスタートしました。沖縄ではコンクリート造の建物が主流で、台風や湿気、紫外線に耐えられる構造が求められるため、左官業の需要が高い地域です。こうした需要に支えられながら事業を拡大し、平成27年1月に法人化しました。

事業のもう一つの柱が、「自社ビルでホテルをやりたい」という創業者の夢から生まれた宿泊事業です。令和21月にアパートメント型ホテル「ヴィラ泡瀬111」をオープンしました。全室オーシャンビューで、各部屋にキッチンと乾燥機付き洗濯機を完備した「暮らすように過ごす」スタイルが特徴です。荷物を少なくして来ていただくことができ、静かな環境でゆっくりした時間を過ごせる点に好評をいただいています。


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運営はどのように始まったのでしょうか。


宿泊業のノウハウが社内になかったこともあり、当初は県内で7店舗を展開する運営会社に委託していました。しかし、コロナの影響でその運営会社が沖縄から撤退することになり、令和5年からは自社で運営する形に切り替えました。

 

運営を引き継いだ当初は赤字の状態だったこともあり、スタッフの確保と業務の安定化が最初の課題でした。ただ、前の運営会社が運営の基盤を整えてくれていたため、大きな混乱なくスタートすることができました。

 

私自身は、清掃から業務フローの把握まで、一通りを自分で学ぶところからのスタートでした。


海外ゲスト対応の限界。鍵が受け取れない、台帳が書かれない


――
自社運営を進める中で、どのような課題に直面しましたか。


最も大きな問題は、鍵の受け渡しトラブルでした。当ホテルでは施錠付きロッカーによる非対面での鍵引き渡しを採用しており、事前にメールで通知した4桁の番号を解除キーとして使用します。

 

当時は宿泊者の約8割が海外ゲストで、複数のOTA(オンライン旅行代理店)を経由した予約が中心でした。複数サイトをまたぐと、当ホテルからの連絡が届くまでに23日かかったり、途中で止まって全く届かなかったりするケースも珍しくありません。その結果、ゲストがチェックイン情報を受け取れないまま到着し、鍵の受け渡しトラブルが頻発していたのです。

 

メールが届いていない場合でも、予約番号や電話番号の下4桁で開錠できる仕組みにしていたため、最低限の対応はできていました。ただ、ゲストが到着してもスムーズに鍵を受け取れない状況が続いており、その都度スタッフが対応に追われることと、ゲストに余計な負担をかけてしまうことが悩みでした。

 

また、予約時のメール連絡は1件ずつ手動で行っており、その作業負担も積み重なっていました。

――他にも運営上の課題はありましたか。


はい。宿泊業者には、宿泊者全員の名前や連絡先などを台帳に記録する法律上の義務があります。また、海外ゲストの場合はパスポートの確認も必要です。当時は紙の台帳を部屋に置き、ポストに返却してもらう形をとっていましたが、記入漏れや未提出の場合もあったので、法令順守をより確実に行うための改善が課題となっていました。

鍵管理システムkeycafeと無人チェックインシステムの連携で、業務の8割を自動化


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その課題に対して、どのようなアプローチをとりましたか。


まずは外部の知恵を借りようと思い、中小企業診断士の方に運営について相談したところ、ISCO(沖縄ITイノベーション戦略センター)の専門家派遣制度を紹介いただきました。そこで担当専門家から提案いただいたのが無人チェックインシステム「Smart front MujInn
(スマートフロント ムジン)」と鍵管理システム「keycafe(キーカフェ)」を連携させる仕組みです。


――
システムの仕組みを教えてください。


Smart front MujInn」は、複数のOTA(オンライン旅行代理店)の予約を一元管理するサイトコントローラー「TEMAIRAZU(手間いらず)
」と連携した無人チェックインシステムです。予約が確定すると、システムが自動でゲストに案内を送ります


ゲストは案内に従って、ホテルに設置されたkeycafeのスマートロッカー(鍵を受け取るための無人ボックス)から、自分の都合の良いタイミングで鍵を受け取ることができます。


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システム選びで決め手となったのはなんですか?


使い慣れた「TEMAIRAZU」をそのまま使い続けられる点は大きかったですね。慣れ親しんだシステムを変えずに連携できると分かったことが、導入の後押しになりました。

 

また、「県内にすでに導入しているホテルがある」と聞き、実際にその施設を見学させていただきました。同様の課題を抱える施設が補助金を活用して導入し、現場で問題なく稼働している様子を自分の目で確認できたことで不安が解消され、導入を決断しました。

――導入後、業務はどのように変わりましたか。


以前はほぼ全てのゲストに個別でメールを送っていたのが、システムが自動で対応してくれるようになりました。鍵受け渡しのトラブルも減少し、従業員によるフォローが必要なケースは全体の12割程度に絞られるようになりました。トラブルが発生したゲストにだけ集中して対応できるので、業務の効率・品質が大きく改善しています。

 

宿泊台帳については、事前チェックイン時に必要情報を入力する仕組みになったため、記入漏れの問題が解消されました。パスポートの確認も、鍵の受け取り前に必須とすることがフローに組み込まれており、法律上の義務をしっかり果たせるようになっています。

――導入にあたって、社内からの反発はありましたか?


従業員からの反発は特にありませんでした。家族経営という形態のおかげで、現場に余計な軋轢を生みにくかったのかもしれません。

 

社長も「任せる」スタンスで意思決定がシンプルだったため、導入のハードルは低かったと感じています。

次のIT化へ。勤怠管理システムと清掃ロボット導入を検討中


――
今後、導入を検討しているITシステムはありますか。


まず取り組みたいのが、勤怠管理のデジタル化です。現在はタイムカードで運用していますが、データをリアルタイムで把握できる仕組みにすることで、集計作業の効率化や正確性の向上につなげたいと考えています。

 

ただし、宿泊業と左官業では働き方が大きく異なるため、それぞれの事業の特性に合った運用が必要だと感じています。

――働き方によって運用が変わるのですか?


はい、特に左官業は難易度が高いと感じています。左官業は毎日異なる現場へ出向き、天候や工程によっては途中で作業を切り上げたり、急遽別の現場へ移動したりすることもあります。

 

日々動くスタッフは約100名の規模で、そのうち自社社員は約20名。約8割が外注や応援スタッフで、複数の会社から班単位で人員が入るため、誰がどこで何時間働いたかを正確に把握することが容易ではありません。

 

現状は、現場からのLINEによる報告内容を手書きでメモし、その内容を各社から提出される請求書と突き合わせるアナログな方法で管理しています。最終的には社長が一件ずつ確認しているので、集計や突合作業に多くの時間を要しているのが実情です。今後は、勤怠情報を一元管理できる仕組みを導入し、入力から集計・確認までをデジタル化することで、管理業務の効率化と精度の向上を図りたいと考えています。

――そのほかに検討していることはありますか?


清掃スタッフの負担を少しでも軽減するために、清掃ロボットの導入にも関心があります。ただ、客室内には荷物や家具が多く、さらに部屋ごとに間取りや形が異なるため、ロボットがうまく動けるのかという懸念もあります。

  現時点では、清掃業務の効率化に向けた有力な選択肢として関心を持ちながらも、施設の構造や運用との相性を見極めている段階です。


――
デジタル化を進めようとしている企業に、アドバイスをお願いします。


まず大切だと感じているのは、自社だけで抱え込まず、専門家や支援機関に相談することです。私自身、インターネットで見つけた中小企業診断士の方に相談したことがきっかけで、ISCOの専門家派遣制度や適切なITベンダーにつながることができました。自分たちだけでは気づけなかった選択肢が見えるようになり、デジタル化への第一歩を踏み出しやすくなったと感じています。

 

また、システム導入に不安がある場合は、実際に稼働している現場を見に行くことも非常に有効だと思います。私たちも、すでに導入している施設を訪問し、実際の運用を確認したことで、「これならできる」という確信を持つことができました。実物を見ることが、安心感につながったと感じています。

そして、経営トップの理解が得られるタイミングを見極めることも大切です。どれだけ良い提案でも、意思決定者が変化に前向きでなければ、なかなか実行には移せません。弊社の場合は、創業者から兄へと社長が交代したタイミングで「任せる」と信頼してもらえる環境が整っていたことが、導入をスムーズに進める大きな後押しになりました。経営の節目は、新しい取り組みを始めやすい機会になると実感しています。

ヴィラ泡瀬111(株式会社中城工業)
HP:
(ヴィラ泡瀬111)https://villa-awase-111.com/

((株)中城工業)https://nakashiro-kogyo.com/
所在地:沖縄県中城村字北浜342-2
従業員数:21名
代表:野波 賢太

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