半年で設備保全記録300件を蓄積。創業84年の製油メーカーが、トップダウンと現場の声で実現したDX
- 2026年03月11日
- 加藤製油株式会社
- 製造業
- 業務管理(設備保全)
- 中国
岡山県玉野市で創業84年の歴史を持つ加藤製油株式会社は、菜種と大豆から植物油を製造する専門メーカーです。 新潟から沖縄まで全国に製品を届け、少数精鋭の体制で着実に事業を展開してきました。
一方で、工場の日常点検や設備保全は紙ベースで管理されており、チェック漏れが起きやすいことや、過去の記録を必要なときにすぐに参照しづらいといった課題を抱えていました。特に、設備ごとの修理履歴を一元的に把握することが難しい状況でした。
2025年に代表取締役に就任した加藤雅子氏は、「カミナシレポート」を2023年に先行導入した後、「カミナシ設備保全」を導入し、わずか半年で300件の設備保全記録を蓄積することに成功しました。
今回は、勤務していた損害保険会社から家業に入りIT導入を強力に推進してきた加藤氏に、DX推進の裏側と見えてきた成果、そして今後の展望について伺いました。
事業内容と製造の特徴
――はじめに、事業内容を説明いただけますか?
当社は、菜種や大豆を原料とした食用植物油の製造・販売を主事業としています。原料は海外から輸入し、工場で搾油から精製までを一貫して行っています。
製品の販売先は大きく二つです。一つは、一斗缶に詰めて卸店へ出荷し、そこから全国の飲食店やホテル等に届けるルートです。もう一つは、タンクローリーで加工油脂メーカーや食品メーカーへ直接納めるルートで、取引先は新潟から沖縄まで全国に広がっています。
また、搾油の過程で発生するしぼりかす(ミール)も、重要な事業の一つです。このミールは家畜の飼料や肥料として利用されるほか、脱脂大豆は醤油の原料にも使われています。
仕入れた原料を無駄なく使い切れる点は、この事業の大きな特徴で、結果としてSDGsの観点からも持続可能性の高い事業だと考えています。
DX推進に踏み切った背景
――IT導入に取り組むことになった背景には、どのような課題があったのでしょうか。
当社では以前から、日々の業務が徐々に回りにくくなっているという実感がありました。工場の点検や記録、設備保全などは紙やExcelファイルを中心に運用しており、作業自体が大変なうえ、どうしても抜け漏れが発生しやすい状態だったのです。
人員にも余裕があるわけではなく、従来のやり方のままでは、これ以上業務を増やすことは難しい。一人ひとりの負担を減らしながら、最低限必要な業務をきちんと回していくためには、何らかの効率化が必要だと感じるようになっていました。
そうした中で、他の中小製造業の取り組みを知る機会があり、同じ規模の企業でもITを活用して業務を整理し、現場の負担を軽減している事例があることを知りました。
「このまま従来のやり方を続けていては、将来的にさらに差が広がってしまう」
そうした危機感から、会社としてIT導入を検討し始めました。
ただし、社内にIT専任の人材がいるわけではありません。そのため、まずは私自身が情報収集としてセミナーに参加し、さまざまなツールの話を聞くところから取り組みを始めました。
――そこでカミナシさんに出会われたわけですね。
はい。セミナーに参加し、いくつかのITツールの話を聞く中で、カミナシを知りました。
カミナシレポートは画面が分かりやすく、不慣れな人でも使いやすそうだと感じました。写真を使って記録できたり、マニュアルを組み込めたりする仕組みは、属人化していた作業を整理するうえでも有効だと思います。
また、少数のIDから始められ、初期費用を抑えて導入できる点も大きかったですね。いきなり全社で使うのではなく、まずは小さく試しながら、自社の業務に合うかどうかを確かめられる。そうした進め方が、当社の状況に合っていました。
強引にスタート、工場長の推進で全社展開へ
――導入はスムーズに進んだのでしょうか。
正直なところ、最初から順調だったわけではありません。当初は、比較的入力項目がシンプルな部署からカミナシレポートの運用を始めたのですが、思うように入力が進みませんでした。
導入の必要性が十分に浸透していなかったことや、タブレットを使った運用への切り替えに対する現場の抵抗感や戸惑いもあったと思います。これまで紙で行ってきた作業を、やり方ごと変えることになるため、「前のやり方のほうが楽なのではないか」という声が出るのも自然なことでした。経営側からは、「本当に現場で使われるのか」「今のやり方を変える必要があるのか」といった慎重な意見もありました。
今振り返ると、業務の実態を十分に理解していない私がひな形を作ってしまい、現場の実務に即していなかったことが大きな要因だったと感じています。また、私は「とにかく進めなければ」という思いが強く、やや強引にカミナシレポートの導入を決めてしまいました。そのため、工場長も当初は取り組みに積極的とはいえない状況でした。
――そこからどうやって立て直したのでしょうか。
転機になったのは、別の部署から「自分たちの業務でもタブレット入力を試してみたい」という声が上がったことです。この動きをきっかけに、工場長が主体となって現場に合ったひな形づくりに関わるようになりました。
工場長は驚くほどスピーディーに対応してくれて、あっという間に40近いひな形を作成しました。実際に使ってみると、印刷やファイリングの手間がなくなり、入力自体も難しくないことが分かり、現場に受け入れられていきました。こうして運用が少しずつ広がっていったのです。
こうした運用が定着する一方で、工場長は設備保全の履歴が追えなくなっていることに強い問題意識を持っていました。
以前は設備台帳が各部署にあり、修理内容も手書きで履歴を追えていましたが、ISO取得をきっかけに修理ごとに依頼書を出す運用に変わりました。その結果、依頼書は日付順には残るものの、設備ごとの保全履歴が分からなくなってしまいました。
そのため、カミナシレポートを活用し、設備ごとの履歴を追えるようなひな形を自ら工夫して運用していたのです。
――その流れで、カミナシ設備保全の導入を検討しはじめたんですね。
そうした中で、工場長から「カミナシ設備保全の方が保全履歴をしっかり管理するという目的に合っていそうなので、導入を検討してほしい」と提案がありました。私も説明を聞いたうえで当社のニーズに合っていると感じたため、工場長を含む関係部署のメンバーを集めて、改めてWEBで説明を受けました。前回、私が先走って失敗した経験があったからこそ、今回は関係者全員で納得したうえで進めようと考えました。
その際、現場の職長から「普段の点検でカミナシレポートを使えているのだから、設備保全でも問題なく使えるはずだ」といったフォローがあり、これが現場全体の安心感につながったと感じています。
その結果、関係者の了承を得てカミナシ設備保全の申し込みを決定しました。工場長の提案から申し込みまでわずか10日間でした。レポートを現場に定着させてくれたのは工場長でしたので、「今度は私がスピーディーに動こう」と決めて進めました。
半年で300件の記録を蓄積。予防保全への期待高まる
――カミナシ レポートと設備保全、それぞれの効果について教えてください。
カミナシ レポートでは、スケジュール機能を活用することで、作業の抜け漏れが防げるようになりました。ISO関連では、週単位・月単位で定期的なチェックが必要ですが、紙での運用では抜け漏れのリスクがありました。カミナシレポート導入後は、あらかじめスケジュールを設定しておくと通知が届くため、必要な作業を確実に実施できています。
また、ISO監査の際にも効果を感じています。過去の記録をすぐに検索できるため、紙を一枚ずつめくる必要がなくなり、ファイリングやコピーといった手間も大きく減りました。
カミナシ設備保全については、現在もデータを蓄積している段階ですが、導入から半年で約300件の記録が蓄積されています。従来は、修理依頼を出した案件については記録が残っていたものの、現場で手元対応した軽微な作業については、記録がほとんど残っていませんでした。
カミナシ設備保全を導入したことで、そうした作業も含めて記録を残せるようになり、写真でビフォー・アフターを比較できるようにもなりました。今後、こうした記録が蓄積されていくことで、さらに活用の幅が広がっていくと感じています。
――今後の展開として期待していることはありますか。
カミナシでは、今後AIを活用した機能の展開も検討されていると聞いています。もし将来的に、設備の状態をもとに予防保全ができるようになれば、非常にありがたいですね。
弊社のような規模の工場では、設備トラブルで工場が半日止まってしまうだけでも、影響は小さくありません。そのため、事前に異常の兆しが分かり、操業停止を防げるようになれば、大きな意味があると感じています。
現時点では、まずは日々の点検や設備保全の記録をしっかり残していくことが重要だと考えています。今こうしてデータを蓄積していることが、将来的に何らかの形で生きてくるのではないか、その点に期待しています。
タイムカード廃止、生産管理のデジタル化も視野に
――今後さらにIT化、DX推進に取り組みたい分野はありますか。
まずは紙のタイムカードの廃止ですね。これは業務上の課題を感じていた総務担当者が自主的に提案してくれたもので、 今春には、ICカードをかざすタイプの勤怠管理システムに切り替えます。 それに伴い、休暇なども全て自分のスマホから申請でき、勤怠管理表にも自動で反映できるようにする予定です。
それから、生産管理ですね。 今はExcelで管理していて、手入力やコピーアンドペーストが多く、煩雑な作業が発生しています。 作業工程の見直しがなされないままなので、この状況を改善したいと思っています。
――生産管理システムの導入も検討されているんですか。
コンサルティング会社に入ってもらって検討しているのですが、製油は工程がすごく単純で、生産管理システムを入れてしまうと、かえって手間になる可能性があるようです。 ですから、いったんノーコードツールでのシステム構築を検討しています。
また、人事管理もExcelなので、評価シートなどをツールに置き換えられないか、模索しています。 評価制度も刷新したので、この目標はこう、評価はこう、というようにフィードバックできるようにできたらうれしいですね。
地方の中小企業こそ、使いやすいツールでスモールスタート
――ツール導入と合わせてIT人材の育成も重要ですが、そういった計画はありますか。
基本的には、若手に育ってもらう必要があると考えています。ただ、若い世代でも必ずしもパソコンが得意とは限りませんので、社外の研修を活用するなど、段階的に学べる環境を整えていくことを想定しています。
また、これからどんどん人が減ってくるので、パソコンが得意でなくてもデータ入力できるような環境にしていかないと、という危機感はありますね。従業員の中にも、各世代で既存のシステムやツールをうまく使いこなして効率化している人はいますが、今後は人材確保が困難になることが予想されます。 弊社の場合、原料管理だけでも複雑なExcelが複数あり、現在の担当者だから使いこなせているという状況です。
統合ツールなどを活用して、特定の人に頼らなくても業務が回る環境にしないと、弊社のような地方の中小企業は安定した運営が難しいと感じています。
――これからDXを進めたいと考えている企業に、アドバイスをお願いします。
まずは、導入ハードルの低いところから、スモールステップで始めることをおすすめします。
いきなり大きなシステムを入れようとすると、どうしても負担が大きくなります。生産管理システムの導入は、いわば高い山にいきなり登るようなもので、難易度も高い。まずは比較的取り組みやすいツールから始めて、少しずつ慣れていくことが大切ですね。
簡単なツールを導入し、現場でタブレットを使うことが当たり前になれば、次のステップへの足掛かりになります。一度使う文化ができれば、「次は何をやろうか」という話が自然に出てくる点もメリットだと思います。
加えて、まずは試してみて、合わなければやめるという考え方も大切ですね。最近のクラウド系ツールは、初期費用を抑えて試せるものが多いです。実際に私自身も、経費精算のツールを試してみたものの、合わずにやめた経験があります。ただ、その経験があったからこそ、「次は別の選択肢も検討してみよう」と、よりよいツールを選ぶきっかけになりました。
また、今回の取り組みを通じて、トップが「何のためにやるのか」という方針を明確にし、それを従業員と共有することが重要だと実感しました。
現場では、新しいものを導入することに対して、安全性や安定性の観点からどうしても抵抗が生まれがちです。意欲のある従業員がいたとしても、「本当にやっていいのか」「失敗したらどうするのか」といった不安から、なかなか踏み切れないケースも少なくありません。
そうした中で、経営側が「現場の負担を減らすために取り組む」「まずは試してみる」という方針をはっきり示すことで、現場も安心して新しいツールに向き合えるようになります。
弊社自身も、DX推進に関してはまだまだです。ただ、その状況を自覚したうえで、少しずつでも改善しようと動いています。完璧でなくても、「この先を見据えて取り組んでいる」という姿勢を持つことが、これからますます大切になってくると感じています。
加藤製油株式会社
HP:https://kato-oil.co.jp/
所在地:岡山県玉野市築港5-8-1
従業員数:55名
代表:加藤 雅子