19年分のデータを経営の武器に。放牧のパイオニアが挑んだ、基幹システム刷新のリアル
- 2026年03月31日
- ファームエイジ株式会社
- その他
- 販売管理
- CRM
- 北海道
ファームエイジ株式会社は、1985年創業、北海道石狩郡当別町に本社を置く、放牧をトータルサポートする企業です。ニュージーランド式の放牧技術を日本に導入し、電気柵をはじめとする畜産・野生動物対策のシステムを提供しています。畜産事業と野生動物対策事業に加え、ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」のFC店舗運営も手がける独自の事業構成で、「持続可能な放牧の普及」を目的に掲げています。
同社が19年にわたって使い続けてきた販売管理システムは、事業の拡大に伴い同時接続数の上限に達するなど限界が見え始めていました。顧客情報はメモ欄頼み、帳票も出力できず、営業と販売管理は分断されたままで、システム刷新は避けられない状況でした。
今回は、中小機構のハンズオン支援事業を活用しながらシステム刷新を主導した常務取締役の隅田豊希氏、経営改善室の笠島雅人氏、販売管理部経理チーム マネージャーの髙橋建太氏らに、検討から導入、データ活用に至るまでの取り組みについてお話をうかがいました。
放牧のパイオニアが手がける、3つの事業
――はじめに、事業内容を教えてください。
弊社の事業は大きく3つあります。1つ目が畜産向けの事業で、放牧用の電気柵やゲート、家畜用の水槽や日よけなど、牛がストレスなく過ごせる環境を整えるための商品やサービスを提供しています。
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電気柵専用のパワーボックス -
哺乳ボトル
2つ目が野生動物の対策事業です。エゾシカやヒグマ、イノシシ、サルなどによる農作物への被害を防ぐための電気柵や箱罠を扱っています。弊社では、人間と野生動物が共生できる仕組みづくりに取り組んでいます。「ここからこっちは人間ですよ、ここからは野生ですよ」と線引きし、お互いが棲み分けられるようにするための商品です。
3つ目が外食事業です。ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」のFC店舗を札幌近郊で2店舗運営しています。びっくりドンキーを展開する株式会社アレフと草地農業の普及を目的とした団体「創地農業21」を共同で立ち上げた縁から、FC店舗運営に至りました。
――畜産事業の成り立ちや、他社との違いについて教えてください。
もともとニュージーランドで普及している集約放牧の技術を日本に導入したことが弊社の始まりです。創業者の小谷が「日本でも実践できるのではないか」と試したところ、放牧を導入した農家さんのもとでうまくいきました。その農家さんから「この取り組みをどんどん広めるべきだ」と後押しされたことがきっかけで、会社を設立しました。
商品の販売だけでなく、放牧のノウハウを広める活動にも力を入れています。ニュージーランドから講師を招いた勉強会「グラスファーミングスクール」を1996年から毎年開催しており、これまでに全国から延べ約2,000人が参加しています。単に商品を売るのではなく、放牧のシステムとノウハウをセットで提供している点が弊社の特徴です。
販売管理システム19年の限界。顧客が見えない、帳票が出ない
――基幹システムの刷新に取り組もうと思ったきっかけを教えてください。
きっかけは、販売管理システムの入れ替えです。何年も前から「そろそろ変えなければ」という声はあったものの、日々の業務に追われてなかなか手をつけられずにいました。
従来の販売管理システムは、もともと少人数での利用を前提とした製品でした。仕様上、同時接続は最大20台までですが、弊社ではそれを超える25アカウントで運用していました。そのため、同時接続数が上限に達すると「誰かログアウトしてください」と社内で調整しながら使っているような状態でした。
加えて、顧客管理を十分に行える機能が備わっておらず、顧客マスターのメモ欄に情報を書き込んで管理するしかありませんでした。また、帳票を出す機能もなかったため、毎回Excelにデータを書き出し、それぞれが独自に帳票を作成していました。その結果、担当者ごとにフォーマットがバラバラなものになっていたんです。
さらに、どの農家にどれだけ売れたのかが把握できず、営業の実態と販売管理の情報が十分に結びついていませんでした。弊社の取引は農協経由で行われており、請求・納品の相手は農協になります。一方で、営業担当者が実際に商談を行うのはその先の個々の農家さんです。従来のシステムでは農協への売上しか記録されないため、農家単位での販売状況を把握することができていませんでした。
中小機構の支援を活用。10社以上を比較し、奉行クラウドを選定
――その課題に対して、どのようなアプローチをとりましたか。
中小機構の「ハンズオン支援事業(IT)」を活用しました。ITを活用した課題解決のアドバイスに加え、企業内でIT推進を担うCIO(最高情報責任者)人材の育成を支援してくれる制度です。専門家に来ていただき、第1期では企画・検討を行い、第2期でシステムの導入に取り組むという形で、2段階に分けて進めました。
ビジョンの策定から課題の洗い出し、いつまでに何を調べるかという線表づくりまで、1つひとつ段階を踏んで進めました。正直、自分たちだけでは「何から手をつけていいのかすらわからない」状態でしたので、この流れが非常に勉強になりました。
――システムはどのように選定しましたか。
オンラインで10社以上から説明を聞き、5〜6社に絞ってデモやプレゼンを受けた結果、導入を決めたのが「奉行クラウド」です。実は当初、奉行クラウドは候補にも入っていませんでした。
価格が高いイメージがあったのですが、試しにデモを申し込んでみたところ、画面の操作性がよく、機能も充実していて、外部システムとの連携もできる。「もうこれだね」と全員の意見が一致しました。
当初は、従来の販売管理システムに連携できるCRM(顧客管理システム)の機能追加を検討していました。ただ、同時接続数などの仕様上の制約が課題として残るため、会社が成長すれば数年後にまた同じ課題に直面する可能性があります。そこで今回は、従来システムに機能を追加するのではなく、新しいシステムに切り替える前提で検討し直すことにしました。
一番苦労したのは19年分に及ぶデータの移行です。「19年前のデータなんていらないでしょう」と、どのベンダーからも言われました。それでも過去のデータを残したかったのは、少なくともマスターデータを同じ体系で引き継がなければ、新しいシステムと過去の実績の整合が取れなくなるからです。
――奉行クラウドの標準機能には顧客管理(CRM)や案件管理(SFA)が含まれていないと思いますが、それらはどのように対応されていますか。
顧客管理(CRM)や案件管理(SFA)、見積機能をどう補うかについて、奉行クラウドを提供するOBC(株式会社オービックビジネスコンサルタント)に相談しました。そこで紹介されたのが、静岡に本社を置くシステム開発会社です。奉行クラウドの標準機能にはないものを同社に独自開発してもらいました。
奉行クラウドと同じ開発プラットフォームで動かしているため、利用者にとっては1つのシステムのように違和感なく操作できます。細かい要望にも「言ってくれれば何でもやります」と柔軟に対応していただき、非常に頼りになりました。
――導入にあたって、社内からの反対の声はありませんでしたか。
あまりありませんでした。代表自身がかつて販売管理システムを選定した経験もあり、反対はありませんでした。現場も、従来システムの限界を薄々感じている人が多く、アカウントが足りないという課題は全員が共有していましたので、大きな反発にはならなかったですね。
一方で、「新しいソフトを覚えられるだろうか」という不安の声はありました。そこで、ハンズオンで支援いただいた専門家のアドバイスをもとに説明資料を作成し、社内で丁寧に共有するようにしました。ハンズオンには第1期・第2期それぞれに中間報告と最終報告の機会があり、その準備を通じて社内にも取り組みの全体像が伝わっていたので、自然と理解が進んだ面もあります。
「勘」からデータへ。BIツールで変わった全社の意思決定
――導入後、業務はどのように変わりましたか。
システム構成としては、伝票作成などの販売管理は奉行クラウドで、見積作成・顧客管理・案件管理・日報・ECデータの取り込みは独自開発した機能で、という形に分けました。営業担当者は後者だけを使えばよいので、奉行クラウドのアカウント数も最適化できています。
顧客管理画面では、ボタンを押すとカスタマーサービスの対応履歴が一覧で表示され、別のボタンから販売履歴の詳細を確認できます。以前はバラバラに管理されていた情報が、1つの画面でつながるようになりました。
――データの活用はどのように進めていますか。
ここ1年ほど、BIツールを使ったダッシュボードの構築に取り組んでいます。在庫数や明細、順位表、業績見通しなど、さまざまなKPIを可視化しました。
特に大きかったのが、売上の見通しをデータから把握できるようになったことです。営業担当者が入力した見込み案件について、過去2年間の実績をベースにして、今年の着地見込みを算出できるようにしました。以前は「勘」に頼る部分があり、営業責任者と代表がそれぞれの見立ての違いにより議論になることもありました。今はダッシュボードを開けば見通しがパッと出ます。先日の全体会議でも、代表がこのデータをもとに今年の見通しを社員に説明していました。
19年分の従来システムのデータについては、奉行クラウドへ移行するのではなく、マスター情報と売上データをBIツールに取り込んで参照できるようにしました。約100万件のデータから1件を検索するのに1秒もかかりません。以前であれば高額なBIツールが必要な規模ですが、現在活用しているBIツールでは、コストを抑えて実現できています。
全社の意思決定基準を「このダッシュボードに統一しよう」という方針で動いています。まだ独自に作成した帳票を使い続けている人もいますが、全員が同じ数字を見て判断するという入口には立てたと感じています。
シミュレーターにMA、チャットボット。次は顧客接点のIT化へ
――今後、取り組みたいIT化はありますか。
内側の基盤がだいぶ固まってきたので、今後は外側、つまり顧客接点のIT化に力を入れていきたいと考えています。
社内向けにはチャットボットの導入を検討しています。自社のプログラマーが作成したもので、特定の面積で家畜を飼育する際に必要な柵の長さの算出などに活用しています。営業担当者ごとにバラつきがあった知識を集約し、誰でも適切なアドバイスができる体制づくりが狙いです。
顧客向けには、Web上で放牧の相談に自動で回答する「Webコンサル」に近いチャットボットも開発中です。土台となるのは自社ホームページで公開している放牧シミュレーター(電気柵の長さで試算できる仕組み)で、これをさらに発展させ、チャット形式で自動的に相談対応できる機能を搭載していく予定です。
あわせて、MA(マーケティングオートメーション)ツールの導入も検討しています。シミュレーターを試した人やホームページの訪問者を見込み顧客として把握し、興味の度合いに応じて情報を届けながら営業へ引き継ぐ。そうした仕組みで、これまで十分にフォローできていなかった見込み顧客にもアプローチできるようにしたいと考えています。
外部の力を借りて、固い頭をほぐすところから
――これからデジタル化に取り組む企業にアドバイスをお願いします。
社内だけで悶々と考えるよりも、外部の力を借りることの大切さを実感しています。正直、取り組んでいる最中は「今やめた方がいいのではないか」と迷う時期もありました。それでも動き出したことで、多くの方の力を借りながら形にすることができました。
私自身、最初は「何から手をつけていいかすらわからない」という状態からのスタートでした。普通なら製品を調べるところから始めると思いますが、CIO人材育成のプログラムでは、まず課題の整理から入りました。そのプロセスを通じて、「このシステムでなければいけない」という固い頭がほぐれ、「これでもいいのかもしれない」、「あれも選択肢になるかもしれない」と視野が広がっていったと感じています。
検討には時間がかかりましたが、丁寧に比較検討したからこそ、自社にフィットするものが自然と見えてきたのだと感じています。自分たちだけで進めていたら、途中で心が折れてやめていたかもしれません。サポートしていただけたからこそ、最後まで走りきれました。
弊社は変化に対して比較的寛容な社風ではありますが、それでも販売管理システムだけは19年間変えられませんでした。社内で「そろそろ変えた方がいいのではないか」という共通認識が生まれたタイミングで、外部の専門家と一緒に踏み出せたことが、今回うまくいった一番の理由だと思います。まずは抱え込まず、課題を整理するところから外部の支援を活用してみることが、最初の一歩になるのではないでしょうか。
ファームエイジ株式会社
HP:https://farmage.co.jp/
所在地:北海道石狩郡当別町字金沢166-8
従業員数:170名
代表:小谷 栄二